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大阪高等裁判所 昭和29年(ネ)460号 判決 1963年2月27日

控訴人 株式会社北沢商店

被控訴人 藤木嗣男 外一四名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人等の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人等は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張並びに証拠の提出、援用、認否は

被控訴代理人等において「(一)訴外西村元治は昭和二六年四月一〇日訴外中元由太郎に対し売買予約完結の意思表示をなし、(分筆前の)本件家屋に対する所有権を取得した。而して被控訴人郭王氏昭、同謝栄輝および同郭順思は西村より右建物の所有権を譲受けたのであるが、登記は中間省略の方法によることとしたため、登記簿上の記載においては、中元より直接右被控訴人等に所有権が移転したこととなり、そのままでは、同被控訴人等の本件抵当権設定登記抹消請求権が登記面上まつたく表明されないこととなるのでこれを補うため、本件附記登記をなしたものである(従来の主張中以上に反する部分は右のとおりあらためる)。而してかような場合被控訴人等の地位は、西村が所有権取得の本登記をなして右抵当権設定登記抹消請求権を取得し被控訴人等がこれを承継した場合と異なることがないから本件請求は正当である。(二)仮に右主張に理由がないとすれば第二次的に、訴外西村は同中元に対して有していた売買予約完結権を中元の承諾をえて前記被控訴人郭王氏昭等に譲渡したものであり、而して右三者等間に、売買予約完結にともなう代金支払債務は西村の中元に対する債権を以て決済する旨の合意が成立したものであると主張する。」と述べ、控訴代理人において「(一)訴外西村元治は昭和二六年四月一〇日に訴外中元由太郎に対し売買予約完結の意思表示をなし、(分筆前の)本件家屋に対する所有権を取得したのであるから、右売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記は、右四月一〇日より後においては、右仮登記上の権利の譲渡性を喪失したものであり、したがつて西村元治と被控訴人郭王氏昭、同謝栄輝及び同郭順思との間に同年一二月七日なされた譲渡契約には、右仮登記上の権利を移転する効力はなく、したがつて、右被控訴人等が同年一二月一九日なした附記登記はその原因を欠き無効というべきである。のみならず、売買予約を完結する権利は代金支払いの債権債務をともなう債権的な権利であるから、本件建物に関し利害関係を有する控訴人に対しその譲渡を対抗するためには民法第四六七条所定の確定日附ある通知又は承諾を要するにかかわらずかかる書面は作成されていないのであつて、この点からしても、そもそも被控訴人等主張のごとき仮登記上の権利が譲渡された事実はないと認定せらるべきである。(二)被控訴人等主張の中間省略登記に西村元治及び中元由太郎が同意したとの事実はこれを否認する。(三)控訴人の主張は以上のとおりであつて、これ以外被控訴人等の主張を従来争つた部分はすべて撤回する。」と述べ〈証拠省略〉たほかはいずれも原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

被控訴人等主張事実は、控訴人において、訴外西村元治が分筆前の本件建物に関し訴外中元由太郎に対し有していたところの昭和二四年七月二八日附売買予約による所有権移転請求権保全仮登記上の権利は譲渡せられたことなく、仮りに譲渡せられたとしても右権利は西村が昭和二六年四月一〇日中元に対し右予約完結の意思表示をした後においてはその譲渡性を喪失したものであり、したがつて本件仮登記移転の附記登記は無効であり、かつ本件中間省略登記も西村及び中元の同意なくしてなされたものであるから無効であると抗争する以外には、当事者間に争がない。

而して成立に争ない乙第一三乃至第二六、第二九乃至第三一、第三四乃至第三六号証および当審における証人西村元治(一部)、中元由太郎(第二、第三回)の証言によれば、訴外西村元治は昭和二六年四月一〇日、同中元由太郎に対し前記建物に対する売買予約完結の意思表示をした後もその所有権取得登記をすることなくして同年一二月七日右建物の所有権を被控訴人郭王氏昭、同謝栄輝及び同郭順思に譲渡したものであるが、その際前記売買予約による仮登記にもとずく権利も共にこれを譲渡する旨の意思表示をしたこと、および同月一九日右被控訴人等のための所有権取得登記をするにあたり訴外中元の承諾をえて同人より直接右被控訴人等に対する中間省略登記をしたものであることが明らかであり、控訴人主張のごとき確定日附ある通知書が作成されなかつたことは前記仮登記にもとづく権利譲渡の意思表示があつたことを否定する資料となすに足らず、また当審証人西村元治の証言中右認定に反する部分は当裁判所これを採用しない。

控訴人は右仮登記上の権利は、訴外西村が昭和二六年四月一〇日訴外中元に対し売買予約完結の意思表示をなし前記建物の所有権を取得した後においては、その譲渡性を喪失したものであり、したがつて前記被控訴人郭王氏昭等の右建物に対する所有権取得については右仮登記の順位によることをえないと主張するが、仮登記は本登記の順位保全を目的とするものであるから、仮登記権利者は右順位を保全しうる権能すなわちいわゆる仮登記にもとずく権利を有するものと観念することをうるのであつて、この権能は仮登記権利者(又はその承継人)において抛棄しないかぎり本権に附随してこれと共に移転すると解するのが相当である。したがつて仮登記は、本登記につき中間省略の登記が適法とされる場合においては、右中間省略登記により現出された本登記の順位をも保全する効力を有するのであつてて、仮登記移転の附記登記は右効力を現実化するための必要な技術的措置にほかならず、また実体的には前記権能の移転を表示するものと解することをうるのである。而して本件において訴外中元由太郎より前記被控訴人郭王氏昭等に対する中間省略登記が中元及び訴外西村の承諾をへてなされた適法のものであることは前認定のとおりであり、且つ、これにつき前記仮登記移転の附記登記がなされているのであるから、右に述べた理由により、右被控訴人等が本件建物に対して取得した所有権は、その登記の順位において前記仮登記の順位によるものというべく、よつて控訴人の主張は理由がない。

以上のごとく控訴人の主張はすべてその理由なく、被控訴人等の主張事実によれば同人等の本訴請求はすべて正当であつてこれを認容すべきである。よつてこれと同旨の原判決は相当であるから民事訴訟法第三八四条第八九条にしたがい主文のとおり判決する。

(裁判官 加納実 沢井種雄 加藤孝之)

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